狂戦士編 Final フールズ・オヴ・ダムネイション(Fools Of Damnation)
【戦士クエネタバレ改変有】
最後の試練はわたしを知り尽くした相手
もし、勝てぬなら戦士の道を捨てよ、その覚悟で挑めと老人はわたしを送り出した。
暗闇の密林にぽっかりと空いた穴。
吸い込まれるように中へ入ると、神秘的な遺跡群が水没して点在している。
奥へ進み、重い扉を開けた先は。
空洞を囲むように滝が流れ落ち、飛沫で辺りは煙っている。
息を吸うたびに肺が浄化されるような清浄な空間。
聞き慣れた引きつり笑いが聞こえてくる。
ひっひっひっ
そうです。この場所でございます。
さあ、目を閉じてくださいませ。
ゆっくりとおのれの心を、見つめるのです。
あなたさまの弱さ、粗暴さ、薄情さ、高慢さ、残酷さどんなにみにくい心をあなたさまの中に見出しても恥じることはございません
ただ、向き合いそして……
最高の結末を……
滝の飛沫の中にたゆたうようにしていた薄紫の闇が集まって、一人のドワーフの女の形になった。
武器を掲げ、振るう。最強最悪の敵。剣戟と咆哮の中、今までの試練が頭の中を駆け抜けていく。
ただ、強くなりたかった。だから剣を振るった。
より強い力を求めた。仲間からも恐れられるようになった。
強い力の持つ責任と支配ーー
でも求めていたものはそんなものではなく、もっと、自由に。もっと、高みへ。
そうだよ、ごちゃごちゃしてて忘れてたけど
わたしは憧れていたんだよ、無敗の狂戦士に
人を殺すのが怖い?
力を振りかざすのが怖い?
嫌な事はしなけりゃいい。
正気なんて狂気の一面に過ぎない。
誰かに与えられた戦い
誰かに頼まれた勝利
そんなものに価値はない。
わたしは何者からも自由にわたしの力を振るう。
側から見れば狂って見えるかもしれない。
でもそれがありのままのわたしだとするならば
来ォいッ!!
わたしは大鉈を投げ捨て、挑発する。
わたし自身の影を。恐怖を。
流石はわたし自身の影。
向こうも武器を捨て、拳を構えた。
さあ、ブッ飛ぶまで殴り合おうじゃないか
相手が突き出した籠手の金具に左の籠手の金具を引っ掛ける。逃げ場はないぞ。
腕を繋がれた二つの影が激しく殴り合う。
兜ごしだろうが何発殴られようが構いやしない。全身のバネを使い最高速の一撃を何発も何発も叩き込む
相手の拳がこめかみを打ち抜く。気絶へと繋がる快感にも似た衝撃をなんとか踏み止まる。こんな所で飛んじまったら、勿体無いじゃないか。
実力は当然ながら伯仲、精神状態は最高に尖っている。こんなコンディション、滅多にない。
欲望をも捨てた狂戦士の姿を見たか
それは純粋な力と力のぶつかり合い。
そのうちわたしは影と一つになって……
目覚めた時はわたしは一人で倒れていた。
起き上がろうとすると、全身が絶叫する。ああ、ダメだなこれは。しばらくは動けない。
笑いがこみ上げてきた。肺が上下するたび激痛が走るが、これが止まらなかった。
人の営みを破壊するのが闘争だと思ったけれど、闘争すら人の営みの一部なのだ。
人間は思っているより懐が深い!
悲鳴とも笑い声ともつかない音を出していると、聞き慣れた獣の鳴き声が。
どうやら迎えが来たようだ。
酒場に連れて行ってくれるだろうか。今日は上等の蜂蜜酒でやろう。わたしの武勇伝を語り明かそう。誰もがきっと笑い飛ばしてくれるはずだ。
首から下げていた水晶は美しい星の煌めきを内包する黒水晶になっていた。
誰にも縛られない。誰も縛らない。
自由に存在するための闘争。
それが、わたしがたどり着いた狂戦士の秘密。
戦士さま、戦士さま……
おやおや……声が届かなくなってしまったようで。
結末は最高の悲劇、とはなりませんでしたが、とても面白いものを見させていただき感謝至極の至りでございます。
やせぎすの影がうやうやしくお辞儀をする
さて、わたくしめも次なる戦士様をお迎えに行かなくては。
もし、あなたさまが再び迷われた時は、このわたくしめをお呼びくださいませ。
……いつでも、お待ちしておりますよ。
ゆらり、とろうそくの火が揺れて、やせぎすの影は闇に溶けた。
辺りには静けさだけが残った。
狂戦士の秘密が知りたい子は寄っといで……
ヒヒ、ヒ、ヒ、ヒヒ、ヒ……