狂戦士編 2nd センソリウム(sensorium)
柄にもなく、バザーで武器を新調してしまった。
ただ強い力が欲しい。敵を叩き伏せるちからが。
そうしてわたしは狂戦士の老人の元を訪ねる。
相変わらず、嫌な雰囲気の門構えだ。少しためらって、小屋の暗がりへと踏み出した。
……ひっひっひっ
ようこそおいでくださいました。
伸びざかりの戦士さま……
戦士としてさらなるチカラを得ようとギラギラしている頃でございますね。
言い当てられたのがシャクだったが、それより早く試練を受けたい。試練だなんだとのぼせた奴らを踏みしだきたい。
ベコン渓谷北西、ベレの洞穴。
場所を聞いたらいてもたってもいられなくなった。踵を返すと
ひひひっ、戦士さま、戦士さま。
まじないが、まだですよ……
呼び止められてしまった。
まじないを受けている間、ムズムズしながら頭の中では見知らぬ敵との模擬戦が始まっている。
老人アガペイの見送りの言葉とともに足取り荒く出かけて行く。
頭の皮を引っ張られる感覚。目がカッと開き、獲物を見逃さないように。
口角は、自然と上がり多分犬歯がチラチラ見えていただろう。
道中に立ち塞がったホネの竜を粉々に砕く。
……足りない。
もっと恐怖を与えてからでなくては、心まで砕けない。立ち向かってきたことを後悔させてやらなくては。。
かがり火はすぐに見つかった。再び黒い炎がわたしを誘う
オーガの子分どもが怯えている。
最強の刺客が放たれたらしい。
レギオン…親分は……どうだ?
「歯向かう奴は皆殺しだ。
子分達が恐怖で震える中、わたし(なのだろうかこれは)は興奮で震えている。
皆殺し、という言葉の強さに、早くも酔いが回ってきたようだ。
屈強な「シールドオーガ」が2体。盾なんぞ構えてパラディンのつもりなのか?いけ好かない奴ら。
武器を構える。たっぷり与えてやるからな。
……恐怖と、後悔を。
「決着ゥゥゥッ!!
二人目の敵を切り裂いて、わたしは勝利をアピールした。この瞬間が、生きている、という事だ。
難なく雑魚二人を蹴散らし、レギオンの兄貴はご満悦だ。子分どもはわたしを褒め称える。
そうだ。強い。強い!わたしは、強い!
そして胸に渦巻くドス黒いヘドロのような後味。吐き気すら感じるこれは、今回もセットでやってきた。
こいつはまさに修羅だ。「あのガートランド聖騎士団最強のふたり組」をブッ殺しちまったんだからな!
クッククク…
喉の奥から絞り出されるような笑い声が出る。
賞賛の言葉の違和感に気づかないくらいわたしは勝利に打ち震えていた。
それに被さるように老人の甲高い笑い声が聞こえる。。
ひっひっひっ………
気がつくとまた、何もないところに立っていた。
帰りも立ち塞がる魔物を倒しながら進むが、例によって、物足りない。
重さがないんだよ、重さが。
もっと真剣に、もっと必死に立ち向かって来い……!いや、わたしの武器の重さが足りないのかもしれない。
重たい武器を振り回すチカラが。
ドカドカと老人の暗がりに乗り込む。何が足りないのか、問い詰めたかった。
だが老人はニヤニヤ笑いわたしをことほぐのだ。
魔物と思って殺したもの、あれは一体なんだったのか。
わたしの胸に渦巻く感情こそ、贈りたかったものだと。
薬草屋の青年がくれた、水晶のペンダントが震えるように、揺れていた。
狂戦士の秘密が知りたい子は寄っといで……
ヒヒ、ヒ、ヒ、ヒヒ、ヒ……