狂戦士編 1st コンサイン・トゥ・オブリビオン(Consign To Oblivion)
ひっひっひっ……
ようこそおいでくださいました。
戦士さま。
わたしは噂の「狂戦士」へと繋がる老人の前に立っていた。
その肉体のかがやき……
素晴らしい素質がございます。
どうかわたくしめに、あなたさまを導くお手伝いをさせてくださいませ
暗がりに佇む痩せ細った老人は、その瞳だけをギラギラさせて、大袈裟な身振りとか細い声で芝居掛かった調子で囁くように求めてきた。
是と応えると、老人は顔を歪めて見せた。おそらく、微笑んだのだろう。
あなたさまの心意気……このアガペイが、しかと受け止めさせていただきました。
まことの戦士は心ただしき戦士。試練をこなし、大切なものを得てくださいまし……
先ずは、ゲルト海峡まで戦士のまま向かってください。
そう言ってもごもごと呪文めいた何かを呟いた。
火の消えたかがり火が、わたしを導くらしい。洞窟探検なんて、肝試しじゃあるまいし……
件のかがり火はすぐに見つかった。
触れると黒い炎が灯ったかのような気がして、あたりは闇に染まった。
視界が戻ると数人のオーガがたむろしていた。
レギオンと言う名の屈強そうなオーガとその手下らしき者たち。
親分格の男に怯えているのか?子分たちの動きは固い。獲物をモノにできなかった事で気合を入れられているみたいだ。
そこへもう一人、オーガが駆け込んで来た。獲物を見つけたらしい。今度はしくじるなよと、どすの利いた声で釘を刺されて、子分たちは獲物を狙って走っていった。わたしもそれに続く。
獲物っていうからどんな大物をやるのかと思ったら踊る宝石3匹。なんだいこんなのチョロいチョロい。
圧倒的優位に口元が緩んでしまう。逃げ惑う魔物たちに容赦なく大剣を叩きつける。狩りをする猟犬はきっとこんな気分なんだろう。いつもよりしっかりとした手応えを感じた。オラッ絶好調じゃ。
親分は獲物の取れ高に満足したようだった。新人のくせになかなかスジがいいと先輩たちに囲まれ賛辞を浴びる。
が、三番めの先輩が言った言葉が妙に引っかかった。。
それにしても凄えなぁ、「魔物でも」ぶっ殺すみたいにやるんだもんなぁ
何を言っているんだ?わたしは「踊る宝石」を数体仕留めただけのはずなのに……
先輩たちが去っていくとゆっくりと視界が暗くなって来た。
わたしの手にはべっとりとした何かがついていた。暗闇で、それが何か確認する事は出来なかったが、尋常ではない勝利の高揚感と、胸の奥に淀んだドス黒い何かが生まれたのを、感じて、手の違和感はすぐ忘れてしまった。
闇の奥から老人の声が聞こえる。
これで最初の試練は終わりらしい。気がつくと何もない空洞に一人で佇んでいた。
先ほどの勝利を思い出し少し表情が緩んでいたみたいだが、それを見つめるスラめしが怯えているように見えたのは気のせいだったか。
ひっひっひっ
よくぞご無事でおかえりで。
ちゃんと「戦士としての階段をひとつのぼられた」ご様子……
ウットリとした様子でわたしの顔を撫で回すアガペイ老人。不思議と嫌な気分がしないのだ。誇らしいとか、それよりもっとどう猛な気持ちになる。力を誇示したい。
あなたさまは「あの世界」で何をして、何を得たのかちゃんとはわかっておりますまい……
ですが、それでよろしいのでございます……
今のところは……ね。
老人は瞳の奥をじいっと覗き込みながら意味深な言葉を発してゆく
ささ、お疲れでしょう、一旦休まれて、また来てくださいませ。
今まで見たことがないにこやかな表情で老アガペイはわたしを見送り、暗がりへと戻っていった。
何故だろう。今すぐ次の試練を受けたいという気持ちと、今すぐ試練を放棄して逃げ去りたいという気持ちがないまぜになって頭がどうにかなりそうだ。
犬歯をむき出して歯を食いしばっているとスラめしがとりあえず、休みましょうと促して来た。
その言葉ではっと我に帰る。確かに、少し疲れた。一旦休もう。そうして離れた暗がりからはかすかに老人の笑い声が聞こえて来た。
狂戦士の秘密が知りたい子は寄っといで……
ヒヒ、ヒ、ヒ、ヒヒ、ヒ……