狂戦士編 intro 月夜のユカラ
手袋をきつめにはめる。
鎧の軋みを確認する。
体の中心から末端へゆっくりとリキみを流していく。武者震い。
深く息を吐いて、身の丈より大きな大剣を背負う。
……行くぞ
鬨の声、剣戟、呪文が大気を揺らす。
いくつかの断末魔をすり抜け、立ち塞がる者に渾身の一撃を叩き込む。
精神を極限まで研ぎ澄まし、風は呼吸となり、地鳴りは足音となる。
生きている限り生の全てを余すことなく感じられる世界。
討伐隊。各地方に整備されている自治組織。
基本的に危害を成す魔物の討伐をしている。
常に人手不足なので冒険者の傭兵を歓迎している。
冒険者には代表的な金策だ。わたしもご多分にもれず、このわかりやすい日雇い仕事を活用している。馬車で魔物の生息地へ向かう途中、ブスッと押し黙った連中ばかりの中で、まことしやかな噂が流れ出したのは最近のことだ。
ーー狂戦士(ベルセルク)
思考は自然そのものと合致し、ただ殺し、ただ生きる。生き物として最もシンプルな闘争。
恐怖はなく、慈悲もない。ただ戦う事が生きる事。
並の感覚では狂ったように映るそれを戦士たちの間では崇拝する者もいる。その感覚、或いは強さ。戦士を志す者ならば一度は憧れるだろう。
その狂戦士へと誘う老人がいるという。
彼を訪ねて帰って来たものはなし。
「まだ、誰も、選ばれていない。」
その甘美な響きは歴戦の強者たちを魅了し、噂を聞かない日は無くなった。
どうやらグレンにいるらしい?
老人?白昼夢?戦士を待っている?
そうしてわたしは……
ひっひっひっ……
ようこそおいでくださいました。
「戦士」さま……