功夫編 其ノ参 鳥児在天空飛翔 (長いやつです)
来てくれたか~まにえら~
安堵ともなんとも言えない声をその男はかけて来た。
ジュレットにしては珍しい曇天が、何となくわたしを不安な気持ちにさせた。
早速、参の書を受け取る。早く読みたいとはやる気持ちをそこそこに読み進める。
ヤーンはそんなわたしを一種異様なモノを見るような目で見ていた。
ついたのはグレン駅。名産品のげんこつアメを頬張りながら、超天遊戯に書かれた「水をたたえ、人が集まるところ」を目指す。塩っぱさというか、げんこつダケの出汁風味がなんとも言えない滋味である。
地図を広げ、場所を確認。
オグリードの険しい山道は歩くだけで中々の消耗だ。わたしがドワーフということもあり、結構キツいものがある。が、
…ふむ、走ってみるか。
グレン東→ゲルト海峡
なんで走ってるんだろ?最近こういう自分以外の意思みたいなのが何かを決めてしまう事があってなんだか違和感。
それは置いておいて、海峡名物、勇気試しのバンジージャンプを敢行!
これで勇気を示して超天遊戯が光……らない!
あれ?違うの?
地図を広げる。次の水場は遥か南、ガートランドの先、入江の集落。こうなりゃこっちも意地ってもんがある。絶対走破してやるからなー!
ゲルト海峡→ランドン山脈→ランドンフット→ザマ峠→ガートランド領→ギルザッド地方
一昼夜駆け抜けた。しかし、峡谷、雪山峠に草原と本当に様々な気候が入り乱れている。鍛練好きのオーガにとっては確かにぴったりの大陸だと思う。山が多いからか金属加工が盛んで、武術というより戦士や聖騎士が発展したみたいだが。超天道士がオーガだったら後を継いでも良かったかな、なんて。
(雪山寒いぞ)
さて。ギルザッド地方。
ここにある入江のキャンプ地はかつて立地の良さから多くの冒険者で賑わっていたらしい。特に第2期くらいの時期。
バザーの規制緩和で大陸ごとの商品が全世界流通になって以降、緩やかに衰退していった土地。
過ぎ去った強者の幻を想って少し、ぼぅっとしていると
「やはり…修行を進めていたのは、あなたでしたか。
ガウラド?だっけか?が話しかけて来た。
何でだろうオーガだったら大抵無条件に好きなんだけど、ちょっと苦手…
この修行は元々ヤーンが超天道士の名を継ぐ為の修行らしい。
え、それだとなんか替え玉受験みたいじゃないか?いや、薄々はわかってたんだけれど。だって書のタイトル、「超天」遊戯だし。
知らなかったふり。
わたしが替え玉受験をしてるのを確認したら満足したのかガウラドは帰ってしまった。なんなんだ?
そして超天遊戯が輝き出した。鼓動と呼吸の秘法。
……鼓動、ね……
確かに一昼夜山道を駆け抜けるなんて、何らかの呼吸法でも使ってないと無理だよな。
あまり疲労を感じていない体にいよいよ人間離れして来たなと溜息。
それと、時々首をもたげる剥き出しの闘争心……わたし由来ではないこれは何なんだろう。
ヤーンに超天遊戯を返す。他人に修行を代わりにやらせて、どういうつもりなのか。徐々に超天遊戯に「浸食」されていくこの感覚は何なのか、問い詰めなければ。
それだけじゃない。わたしの体を乗っ取ろうとする何者かをどうにかしないと。
そこにガウラドが嫌味を言いに現れた。
体がすでに変化しているわたしは、もう引き返せない状態になっているらしい。
あの禁忌の書によって、いわゆる「闘気」を生むように改造された体。奥義を使うことによって溢れる闘気を放出する術を得なければわたしの体は耐えきれず、
死ぬと。
ハッハッハぬかしおる!
……え、死ぬの?
次回!奥義伝承!然らずば死!!